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以下は東証ペンクラブの会報PENに書いたものです。御参考までに、ウェブに載せることにしました。また、私のキヨサキ氏へのインタビューは、Futures Japan 5月号に掲載されます。ご興味のある方は読んでください。

2002年4月18日

私が『金持ち父さんの投資ガイド』の翻訳を手伝うことにしたわけ

『金持ち父さん 貧乏父さん』の第三弾『金持ち父さんの投資ガイド』(キヨサキ他著。筑摩書房)が出た。入門編と上級編の二分冊だが、原著は一冊の本である。訳者はこれまでと同じく、白根美保子さんだが、今回は、私も共訳者として協力している。

『金持ち父さん 貧乏父さん』についてはご存知の方も多いだろう。おそらく、昨年、マネー本でいちばん売れた本だ。2000年11月の初版だが、現在までに130万部出ている。これは日本だけでの数字だ(アメリカで350万部。三十五ヶ国語に翻訳されていて、全世界で1300万部とのこと)。第二弾『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント』も日本では30万部だけれど(この数字でも驚きだが)、アメリカではこちらも100万部を突破しているという。

実は、第一弾の書評を頼まれて書いたことがあるが、かなり辛口にした記憶がある。

「金持ちになるには、『金持ちになる方法』という本を書けばよい」というジョークがある」が、第一弾は「そうした面も感じさせ」「冗長でもある」と。「ファイナンシャル・インテリジェンス」を磨こうという、標榜されているメッセージの割には、書かれてある内容が薄っぺらに感じられたのである。たとえていえば、クレジットカードで買い物をし続け複利で支払っているような金銭感覚しか持たない人が対象の本のように感じたのだった。

「評者にとっての驚きは、本書がベストセラーだということだ。皮肉でも何でもなく、この本が必要なほど一般読者はお金についての知性を持ちあわせていない、ということに驚かされるのである」と書いた。だから、日本はダメなのだという思いもしたし、アメリカでもベストセラーなのだから、アメリカ人の「ファイナンシャル・インテリジェンス」も大同小異だと知ってどこか安堵したものだったが、いずれにせよ、私にとって学ぶべきことはほとんど書かれていなかった。ある畏友は「具体性のないハウツー本」と評していたが、似た感想を抱いた人は多いことだろう。

それが、なぜ第三弾を手伝うことになったのかというと、出版社の編集者I女史から「第三弾は専門的だから手伝ってほしい」と頼まれたからである。私の書いた書評は読んだと言う。だから頼むのだ、と。私は少し驚いた。失礼な言い方かもしれないが、こんな経営者がいたら日本もこうはなっていまい。会社にかぎらず、指導的立場にある人はこうあるべきだと感じたものである。それで引き受けることにした。しかし、引き受けはしたものの、いつものことながら、作業は大変だった。最終の校正が終わったのは、南米旅行の途中、アマゾンのマナウスに向かう飛行機の機中だった。

もちろん、第三弾を手伝うことにした理由は他にもある。正直に言うと、お金もそうだ。だが、それ以上に、本が売れるという感覚を体験してみたいと思ったからである。このチャンスを逃すと、一生、味わうことはないだろう……。

第三弾を手伝うことになってから第二弾を読み始めたのだが、第一弾とはまったく違う印象を受けた。第二弾の書評には、こう書いた。 「前著を読んで物足りなかった人にこそ、本書を勧めたい。

しかし、本書の評判は前著に劣るらしい。前著よりも面白くないという人が多いのだと聞いて、評者は、また、暗澹とした気になった」 

著者自身も第一弾よりも第二弾が気に入っているらしい。

いずれにせよ、著者は、さまざまなレベルの読者に向けて、いろいろな話ができるのだということがわかり、第3弾を手伝うと決めたことへの不安はなくなり、むしろ楽しみになった。

ついでに少し第二弾を紹介しておきたい。

個人の働き方・金銭の稼ぎ方から人間を四つのパターンに分類し、それらを観察・分析することで、金銭的な自由を得る(つまり、金持ちになる)きっかけとするというのが第二弾のテーマだ。

四つのパターンとは、E(人に雇われて働く人。雇われ社長もここに属する)、S(自営業者。スモールビジネスのオーナー)、B(ビジネスオーナー)、I(投資家)であり、EやSからBやIへ移行することを暗示的に勧める。読んでいない人には、SとBの違いが少しわかり難いかもしれないが、簡単に言えば、そこでやっていることが仕事なのかビジネスなのかということだろう。著者の定義では、「自分がその場にいて働かなければならないのならば」それは仕事で、ビジネスではない。自分がいなくても動いているのがビジネス。たとえば一年後にその会社に戻ってきたら、もっと大きくなっている、それがビジネスだというわけだ。 

最終的に金持ちになりたいのなら、Iに属さないといけないという。Iでは、お金が自分のために働いてくれるので、自分で働かなくてよい(ちなみに、アメリカで一般に用いられる「投資」の法的な定義であるハウィ基準は、「共同事業への出資であり、他人の努力によって収益が獲得できるという期待がある」ということだ)。しかし、著者はIに属す前にBたることを勧める。Bとしての素養のない人がIとして継続的に活躍するのは難しい。「知識も資本もない人が投資家になろうとするのは、自滅の道を歩むのも同じ」なのである。

興味深いのは、資産の概念が少し前著とは変化していることだ(自説を明確にしたといってもいいだろう)。第一弾では、本当の資産として、ビジネス、株、債券、投資信託、収益を生む不動産(持ち家は資産ではなく負債。銀行のローンがついているなら、それは自分の資産ではなくて、銀行の資産ということを意味しているというわけだ。銀行の財務諸表には、自分の持ち家が銀行の資産として載っている)、手形、著作権、等々をあげていた。本書では、さらに進めて、不動産ばかりでなく、収益を生まないならば、一般に資産と考えられる証券やゴールドも資産ではないとする。株でもゴールドでも、それが資産なのは買ったときよりも高く売ることができる場合だけだというわけだ。ローンが終わったとしても、自宅はやはりお金が出ていくばかりだ。当然、これも負債。つまり、負債と資産の違いは、キャッシュフローがプラスかマイナスかということだ。

一番、ハッとさせられたのは、リスクとリターンの関係についての著者の考え方だった。リスクを引き受けたら、それと引き換えにお金をもらえというのだ。たとえば保倹に入るときに、リスクを保険会社に引き受けてもらう。その代わり、保険契約者はお金を支払う。

たとえば不動産を買う。それはリスクを負うことである。しかも借金を負ってリスクを負うわけだから、せめてその借金ぐらいは誰かに肩代わりしてもらって返済してもらえというのが著者の考えだ。

実は、私が行っている投資と似たようなことを著者はしてきていたようなのだ。もっとも、著者のほうがうまいに違いないけれど

他にも、いろいろ同意できることが書かれてある。したがって、先に述べたように、翻訳を手伝うことにしてよかったと思ったわけだが、そのうちいくつか書き挙げておく。

投資そのものが危険なのではなく、投資する人が訓練を受けず、知識もないことが危険。

同じ事をしてお金を払うのがアマチュアであり、お金をもらうのがプロ。

金持ちになるには、知識ばかりではなく、感情や心理のコントロールが必要。

金持ち父さんは、成功するほど自由な時間が増えていった(一方、貧乏父さんは出世すればするほど忙しくなっていったが、これは、ビジネスか仕事なのかの違いなのだ)。

第三弾は、結局のところ、著者の主張は最終的にインベスターになりましょう、ということだ。その前段階としてビジネス・マインドを持っていないとインベスターにはなれませんよという(共訳者として、第三弾を詳しく紹介しようと思っていたが、その前に予定の紙幅が尽きた。ごめんなさい)。

第一弾でも書かれているが、なぜ著者が金持ちになろうとしたかというと、要するにお金から自由になりたかったからだ(「お金から自由になる」というのは、実は金銭的に経済的に自由になると完全には同義ではないと思う。「お金にこだわらない」心が「お金からの自由」なのだと理解している)。日本人には儒教の影響があるせいか、アメリカ人よりもお金に対してウェットな思いがあるように思う。日本ではお金の話をすると、「あいつは汚いみたい」に言われる。

そういう心情を払拭して、お金について堂々と語ってもいいんだという気分にさせてくれた点で、『金持ち父さん』シリーズは社会的にも意義があったと思う。

林 康史