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書架から白石鉱次郎『七つの海を越えて 史上最年少ヨット単独無寄港世界一周』(文藝春秋・刊)を読んで 2001年2月某日 1994年3月28日、26歳の著者はスピリット・オブ・ユーコーで単独無寄港世界一周を果たす。それから6年の歳月を経て、冒険は本になった。それだけの時間が必要だったのは、物理的・時間的な問題ばかりではあるまい。私も、学生時代のアンデス探検の本を上梓しようと思いつつ、20年が過ぎている。もっとも、私の場合は、ばたばた20、うかうか30の口で、単に無為だったにすぎないけれど。 何かをなしとげるのは、もちろん、自分のためであるが、その経験は社会的に共有できるに越したことはないし、それが偉業である場合には、半ばそれは義務でもあろう。よく出したと思う。筆者は、世界一周レースに出場できれば、インターネットでリアルタイムにレースの様子を伝えてくれるというから、今から楽しみである。 海の冒険譚は本書を読んでいただくとして、感じたことを書かせていただく。本書はいくつか大事なことを思い出させてくれた。探検魂というばかりではない。山でもそうだが、ヨットでも少ない装備が成否の分岐なのだという。「忘れていた、忘れていた」という感じだ。あまりに当然のことなのだけれど、今の私は重装備にすぎるのかもしれない。面白かったのは、この海の男が船酔いするということ。そして、吐く前にオレンジジュースを飲むというくだりだ。柑橘類の味が吐寫物から、吐きそうになる味(吐き気が吐き気を呼ぶのだ)を取り除いてくれるのである。実は、私も、海洋実習で沖縄への航海途中に、その事実を発見していた。たぶん、筆者よりも前だ。威張るほどの話ではないだろうが。 人の輪の大切さ。筆者は、若くして(こういう表現を使う年齢になった自分に驚くが)そのことに気づいている。筆者が、今後、いかに自分のために生き、かつ、恩送りしていくのかが楽しみである。恩返しは、個人対個人の話であるのに対して、恩送りは、個人対社会の関係をいう。例えば、恩返ししようにも、筆者の師、多田雄幸はすでに鬼籍の人である。 私はあまりヨットに乗ったことはない。ただ、わが師、石濱恒夫はヨット好きである。そう言えば、パペーテに繋留してある先生のヨットはそのままだろうか。『ふぁざあぐうすの海 父とひとり娘の大西洋横断記』を久しぶりに書架から取り出した。 帆は微風 地中海にて作――、先生独特の字が私に何かを語りかける。 久しぶりに、ヘイエルダールのコンティキ号でも読もうか、小笠原へのクルージングを企画しようか――本書は、すがすがしくさせてくれる一方、心の奥で静かに眠っている私のささやかな探検魂に囁きかけ、あろうことに起こしてしまった。 どうしてくれる! 本書は、多田雄幸との出会いで筆が擱かれている。
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