『相場のこころ』(ロイ・ロングストリート著。訳)
東洋経済新報社 1997年
書評
相場というのは不思議な魔力があるようで、一度とりつかれた人は、そこからのがれることができない。しかし相場で財を成した人は極めてまれだというのも、真実だ。だからこそ成功者の秘けつを知りたいという需要は決してなくなることがない。
著者もそうした成功者の一人。米国で60年代に活躍した商品相場師で、穀物取引の世界ではちょっと知られた情報会社、クレイトン・コモディティー・サービス社の会長を務めた。書かれたのは30年前。知る人ぞ知る、といったものらしいが、訳者のあとがきによれば、たまたま注文した何冊かの洋書のなかに見いだしたという珍しい本だ。
相場の格言や技法を記した本というのは、日本でも米相場の昔から数多い。しかし結局は相場の極意といったものはなく、最後は平凡なことのたゆまぬ実践ということになるのだ。この本を読んで改めて分かるのは、克己とか常に平静であるとかの人間的能力が最後の決め手であるということだ。相場指南書は、みな同じことを説いている。
しかし問題は、大きなポジションを持ったとたん、人間は決して平静ではいられないことだ。ではどうすればいいのか。著者は、自分のストレスポイント(ストレスの限界)を見極めろと説く。「ストレスポイントをはるかに超えた取引をしていると、パニックに陥る」。自分を知れ、という古代の箴言(しんげん)はいまも生きている。
そんなことを言われても、当惑するばかりという人のために、もう少し実践的な心得もある。それは毎日、自分の投資のスコアをつけろということだ。使える資金、必要な資金、予想される利益やリスクなどなど。「リスク計算、自分自身のスコアにとんちゃくしないトレーダーを掃いて捨てるほど見てきた」と著者はいう。
「相場には意志がある。結局は相場の意志が勝つ。だれもがそれを知覚できるわけではない。自分が世界で一番賢いと思った瞬間に人は愚か者の群れに堕することになる」。最も世俗的な相場という世界を尽き詰めると、なかなか深遠な哲学が開けてくるのである。
日経金融新聞 編集委員 林邦正
(東洋経済新報社 1600円)
(出所:1997.11.26 日経金融新聞 紙面 9 )
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