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『円・ドル相場の変動を読む』

東洋経済新報社 1991年

推薦のことば

外国為替相場の変動ひとつで、そんなに高くはなかった日本のコメの国際価格がぐんと跳ね上がったりする。わたしたちの毎日の生活に大きな影響を与えていながら、なかなかその正体を明らかにしないのが、この外国為替相場というヤツだ。その仕組みは、素人には複雑怪奇、何冊、参考書を読んでもわからない。ところが、この本を読むと、その仕組みがはっきり見えてくる。著者が、為替相場の世界に、生身の人間をうまく配置するという工夫を施してくれたからである。この工夫で、外国為替相場に熱い血が通った。

井上ひさし


自著 行間を語る 

「女房が笑いながら読んでいましたよ」――知り合いのディーラーにそう言ってもらった時に、この本の目的の一つが達成されたと思った。  

はじめ「外国為替おもちゃ箱」と名づけようとしたほど、外国為替に関するいろんな話を、ごった煮よろしく詰め込んだ本である。当然、本書の目的はいくつもあったが、ビジネスマンでなくても面白く読める、ということも主な目的だった。

外国為替の本は概して難しい。ディーラーをしている私が読んでもそう思うのだから、一般にはかなり取っつき難いに違いない。外国為替は現代人にとって身近な事柄であるにもかかわらず、どこか遠い世界のように考えている人が多い。そういう人にも読んでもらえる本を書きたかった。

また、外国為替相場を考える場合は「複眼」というか、さまざまな角度から考えることが必要だ、ということも指摘しておきたかった。

例えば、今回の湾岸戦争でも「“有事に強いドル”というセオリーが働かなかったのは不思議だ。どうしてか」という質問をしばしば受けた。

実は、外国為替相場には完全に確立されたセオリーなどないといってよく、まして、ステレオタイプに動きはしない。その辺のところが、一般に、いや、ディーラーにも誤解があるのではなかろうか。

“有事に強いドル”という状況が明白に予想できたとする。それなら、他人がドルを買う前にドルを買っておくのが人情だろう。とすれば、買いたい人はすでに買ってしまっているわけで、ドルの上値も限られてくる。

講釈すればパックス・ルッソ・アメリカーナ(米ソの勢力均衡による平和)の変質もあろうが、そんな難しい話を持ち出すほどのことでもない。“有事に強いドル”だけでは相場は向いていない、というにすぎないのである。

もう1つの単純な例をあげれば、東京市場の規模が数年間に倍々で急速に拡大してきたという人がいる。果たしてそうだろうか。ドルをベースに考えると確かにそうでも、円で考えるとどうか。取引がドル・ベースで2倍になっても、その間に2倍の円高になっていれば、本当に取引が2倍になったと単純に考えてよいのだろうか。

こうした話は枚挙にいとまがない。あまのじゃくと思われるかもしれないが、このような発想や視点が外国為替相場にはことに必要なのだと思う。

第5章で円相場の略史を書いたのは、私が長期投資家という生命保険会社で働いているからというよりも、私がテクニカル分析至上主義者ではないことを示したかったからのようにも思う。これも複眼ということにつながっているのである。

実は、私はテクニカル・アナりストと呼ばれることはあまり好きでほない。この言葉には「物を考えない人」というニュアンスがある。

確かに、いい加減な思考しか持たないテクニカル・アナリストもいる。この問題がテクニカル分析のフィロソフィー(哲学)を書く動機となった。そこにほ論理的矛盾もあるが、これもやはり「複眼」ということだと理解している。

(出所:1993.6.16 日経金融新聞より)


 

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